Sounds of infinity: <br>Danny Rampling & Shoom

Sounds of infinity:
Danny Rampling & Shoom

UKアシッドハウス革命とバレアリック・ビートの進化

1980年代後半、UKクラブシーンはかつてない変革を迎えた。その変革の起点となったのが、Danny Ramplingと彼のクラブ「Shoom」である。1987年、RamplingはイビサのDJ Alfredoから受けた衝撃を持ち帰り、ロンドンに新しい音楽と体験を根付かせた。

Shoomは、UKアシッドハウスの発祥地であり、「Second Summer of Love(1988-1989)」というUKレイヴ革命の引き金となった場所でもある。

しかし、この物語は単に「アシッドハウスがUKに伝わった」だけでは終わらない。この流れの中で、後にDJ HarveyのようなDJたちが登場し、クラブカルチャーをさらに深化させていくことになる。

本稿では、Danny RamplingがどのようにしてShoomを創り、UKアシッドハウスの中心人物となったのかを掘り下げ、さらに、その影響が後のバレアリック・ビートやUKクラブカルチャーの進化へとどのように繋がっていったのかを追う。


Shoomのサウンド: アシッドハウスとバレアリックの融合

Shoomは単なるクラブではなく、新しい音楽の流れを生み出した場でもあった。
Danny Ramplingが作り出したShoomの音楽スタイルは、アシッドハウス、バレアリック・ビート、シカゴハウス、ディスコ、ニューウェーブ、さらにはロックまでもが融合したものだった。

Shoomのサウンドの特徴

  • アシッドハウス: シカゴのPhuture、Adonis、DJ Pierreなどのアシッドサウンド
  • バレアリック・ビート: フリーな選曲スタイルで、ディスコやニューウェーブをミックス
  • アンセミックなハウス: CeCe Rogers、Joe Smoothなどのソウルフルなハウスアンセム
  • ロック&ポップの意外性: Rolling Stones、U2、The Clash などもフロアで機能



Shoomでのプレイは、単に流行のハウストラックを流すのではなく、選曲の意外性と、エネルギーの流れを重視したストーリー性のあるセットが特徴だった。

Ramplingは、シカゴハウスとUKの感性を融合させながら、「音楽とエクスタシーが生み出す解放感」を最大限に引き出すDJプレイを確立した。


Shoom: UKアシッドハウスの発祥地

1987年11月、Danny Ramplingはロンドン南部のFitness Centreという小さなジムの地下で、アシッドハウス専門のクラブ「Shoom」をオープンする。

Shoomの特徴

  • 音楽: シカゴハウス+アシッドハウス+バレアリック・ビート
  • 空間: 小さな地下スペースにスモークとストロボライト
  • エネルギー: フルオープンなダンスフロアとMDMAによる高揚感
  • シンボル: 黄色の「スマイリーフェイス」マーク(アシッドハウスの象徴)

Shoomは単なるクラブではなかった。
そこは、新しい音楽、ファッション、ライフスタイルを生み出す場となり、UKの若者たちにとっての「自由の象徴」となった。


1988年: Second Summer of LoveとUKアシッドハウス革命

Shoomの影響は瞬く間に広がり、1988年にはUK全土でアシッドハウスムーブメントが爆発する。この現象は、1960年代のヒッピーカルチャーに倣い「Second Summer of Love」と呼ばれるようになった。

影響を受けたクラブとイベント

  • The Hacienda(マンチェスター) → UKアシッドハウスのメッカとなる
  • Spectrum(ロンドン, Paul Oakenfold) → Shoomに次ぐアシッドハウス拠点
  • Sunrise & Energy(野外レイヴ) → 数千人規模のアンダーグラウンドレイヴ

しかし、アシッドハウスとエクスタシーの普及は政府の警戒を招き、1990年代初頭にはレイヴカルチャーへの規制が始まることになる。


Shoomの遺産

Shoomは、UKクラブカルチャーにおいて最も影響力のあるクラブの一つとなった。その遺産は、以下の3つの要素に引き継がれている。

1. UKクラブミュージックの多様化

  • ハウス、テクノ、トランス、ドラムンベースなどが発展

2. レイヴカルチャーの誕生

  • 1990年代のフェスティバル文化(Glastonbury, Creamfields, Love Parade)へと発展

3. クラブ空間の再定義

  • 「Shoomのような小規模クラブ」 vs 「Haciendaのような大規模クラブ」 という2つのスタイルが誕生

Shoomが生み出したエネルギーは、今もなおクラブミュージックのDNAとして受け継がれている。

参考文献

  1. Red Bull Music Academy Daily - Danny Rampling: The Godfather of UK Acid House
    Red Bull Music Academy, 2018年

  2. Mixmag - Shoom: The Club That Defined a Generation
    Mixmag, 2017年

  3. Resident Advisor - The Birth of Acid House: Shoom and the Second Summer of Love
    Resident Advisor, 2019年

  4. DJ Mag - Danny Rampling Reflects on Shoom and the UK Acid House Revolution
    DJ Mag, 2020年

  5. The Guardian - How Shoom and Acid House Changed UK Clubbing Forever
    The Guardian, 2018年
    https://www.theguardian.com/music/2018/jun/29/shoom-acid-house-uk-clubbing

  6. The Face - Shoom 30: How Danny Rampling Started the UK’s Acid House Movement
    The Face, 2021年

  7. BBC Documentary - Can You Feel It? The Rise of UK Rave Culture
    BBC Four, 2019年

  8. Bill Brewster & Frank Broughton - Last Night a DJ Saved My Life: The History of the Disc Jockey
    Grove Press, 2006年

  9. Matthew Collin - Altered State: The Story of Ecstasy Culture and Acid House
    Serpent’s Tail, 1997年

  10. Simon Reynolds - Energy Flash: A Journey Through Rave Music and Dance Culture
    Faber & Faber, 1998年

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